「強さと脆さ」IV アスペルガーと存在論的黒い白鳥

アスペルガーと存在論的黒い白鳥
「強さ」と「脆さ」のセクション4「アスペルガーと存在論的黒い白鳥」についてですが、これは「ブラックスワン」、つまり「黒い白鳥」を認識できない人々の話です。端的な例として、「万人に共通の黒い白鳥は存在しない」という点が挙げられます。
例えば、9.11のテロ攻撃。犠牲者にとっては「黒い白鳥」でしたが、テロリストにとっては計画的な出来事であり、「黒い白鳥」ではなかった。つまり、情報や利益関係によって「黒い白鳥」であるかどうかは変わる、客観的なものではないということです。
また、「黒い白鳥」という概念は、出来事が起こることだけでなく、その深刻性や影響の大きさにも関わります。あらゆる人に共通する客観的な「黒い白鳥」として考えることは危険で、そうした考え方は幼い子どもに多いとされています。
4歳以下の子どもと4歳以上の子どもを対象とした実験では、他者の視点を考慮できる年齢の違いが明らかになります。この実験では、以下のような手順で進行します。
最初の子供におもちゃを隠す
子供Aが部屋に入り、おもちゃがベッドの下に隠される様子を観察します。その後、子供Aには別室に退室してもらいます。
別の子供を入室させる
子供Bが部屋に入り、ベッドの下に隠されたおもちゃが箱の中に移動される様子を目撃します。この時、子供Aは既に退室しているため、この場面を知りません。
子供Aを再度入室させる
子供Aを再び部屋に呼び戻し、子供Aが隠されたおもちゃを探しに行く場所を予測してもらいます。
この設定で、子供Bは状況を完全に把握している一方で、子供Aは自身が退室した後の情報を持っていません。この状況を前提に、4歳未満と4歳以上の子供に質問します。
結果と解釈
4歳未満の子供は、「おもちゃが最後に移動された場所」（箱）を答えます。これは、彼らが目の前で起こった出来事のみを考慮し、他者の視点を取り入れられないためです。
一方、4歳以上の子供は、「おもちゃが最初に隠された場所」（ベッドの下）を答えます。これは、他者の視点を想像し、子供Aが「おもちゃがまだベッドの下にある」と考えるだろうと推測できるからです。
この実験は、他者の信念を理解し、自分とは異なる情報を持つ他者の視点を想像する能力が、4歳頃から発達することを示しています。
自閉症では、この能力が未発達な状態が続く場合があり、知能が高くてもその傾向が見られることがあります。他者の視点を考慮し、世界を想像する能力が欠けるため、リスク管理や共感力に問題が生じることがあるのです。
特に「アスペルガー障害」の人々は体系化を重視する一方で、感情や他者の気持ちを理解する能力に難があります。金融危機などの問題に取り組む際、こうした特性を持つ人々は、自らの自閉症的な考え方に気づかない場合が多いのです。
リスク管理においては、自閉症的な視点に偏ると非常に難しくなります。「曖昧なものを嫌う」という特性が、柔軟な対応を妨げる要因となるからです。
「過去」と「未来」の関係性を考える際にも、自閉症的な視点では困難が生じます。例えば、大戦争があったときに先祖がいたと考えることや、過去の出来事から将来を予測しようとすることは、その典型です。しかし、「黒い白鳥」のように予測不可能な事象は、前例のない極端な状況で起こるため、従来の考え方では捉えられません。
確率の主観性についても同様です。確率論の先駆者である1925年のフランク・ラムゼイや1930年のブルーノ・デ・フィネッティによれば、確率とは信念を数値化したものに過ぎません。ランダム性にも種類があり、一部の出来事は長期的な性質を持たないとされています。
プラトン的な長期的視点を追求する人生観は、人生が終わるまでに到達することは難しいとされ、短期的な視点が求められることも示唆されています。
「科学的自閉症」のような特性では、他者の情報や視点を考慮することができず、主観的な確率の理解が困難です。そのため、こうした特性を持つ人にリスク管理を任せることは非常に難しいという結論に至ります。