第268回「言わないようにする言葉、 聞きたくない言葉」2021/10/1【毎日の管長日記と呼吸瞑想】| 臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺老師

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  • Опубліковано 19 лис 2024
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    本日の管長日記は、「言わないようにする言葉、 聞きたくない言葉」です。
    最後に一日のはじまりを整える、呼吸瞑想がございます。
    本日もよろしくお願いいたします。
     
    ■管長日記「言わないようにする言葉、 聞きたくない言葉」
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    言わないようにしていることがいくつかあります。
    私は、ふだん自分よりも若い青年たちと暮らしていますので、「昔はこうだった」とか「自分たちの頃はこうだった」ということは言わないように気をつけています。
    この言葉を口にした途端に、若い人たちの心は閉ざされてしまいます。
    そんな昔の話をされてもと思ってしまいます。
    彼らは彼らの今を懸命に生きているので、「昔はこうだった」と言っても仕方ありません。
    もっとも、昔のことを知りたい、参考になるというのであれば、話すこともありますが、自分の自慢話のようにとられないことに気をつけます。
    新聞を読んでいて、「悪気がないことがわかるから反論できないが迷惑でききたくない言葉」というのが書かれていました。
    聞きたくない言葉だというのですから、それは言わない方がいい言葉であります。
    それは、
    「時がすべてを解決してくれる」
    「時間が癒やしてくれる」というのがその言葉だというのです。
    使ってはいないかというと、使っていることもあって反省させられます。
    「ひにちぐすり」という言葉もあって、『広辞苑』には「時間が経つにつれて症状がやわらいでいくこと。時薬。」と解説されています。
    もちろんのこと、そのようにして身体が治ってゆくことがあります。
    しかし、人の苦しみや悲しみというものは、そう簡単に時がくれば解決されるというものではないということです。
    これは、九月二十六日の毎日新聞の日曜くらぶに連載されている「新・心のサプリ」に海原純子先生が書かれていました。
    「9月11日にニューヨークで行われた追悼式の中継を見ていたとき、災害や事件、事故にかかわらず、大事な方をなくした方がおっしゃった言葉」
    だというのでした。
    海原先生は、「9・11から20年が経過している。にもかかわらず追悼式に出席している大事な方をなくした方たちは、抱き合い、涙を流し、大事な人たちのために祈っている。時はすべてを癒やすことはない。すべてを解決してくれはしない。」
    と書かれています。
    それから年をとれば、死別の悲しみも薄らぐのかと思いますが、そうではないのです。
    とりわけ、八十年も九十年も生きてこられた方というのは、戦争という悲惨な体験のなされていますので、死別の悲しみにも慣れておられ、耐える力も強いのかと思ったりしますが、そうでもないのであります。
    海原先生は、
    「ちょうど、同じニュース番組の中で、東日本大震災から10年と半年という特集をしていた。津波で妻を亡くし、遺体が見つからないという80代の男性が、語った言葉が心にしみた。」
     「骨のひとかけらでも見つかったら一晩中抱いて寝ます」
    という言葉を紹介されています。
    葬儀に関わることが多いのが私たちの勤めなので、いろんな悲しみの場に立ち会ってきました。
    忘れられないのは、もう九十歳に近いご夫人が、六十を過ぎたご子息を亡くされたときでありました。
    長い人生を生きてこられて、もう超然としていらっしゃるかのように見えたのでしたが、いよいよ出棺の前になって、棺桶を抱きかかえて、わが子の名前を大きな声で呼んで、号泣されたのでした。
    おそらくや九十年に近い御一生で、最も悲しい時だったのでありましょう。
    数年も経たぬうちにそのご夫人もお亡くなりになりました。
    八十を超えても九十になっても死別の悲しみは変わらないのであります。
    海原先生は、
    「時は解決にはならないのだ。相手を慰めるつもりで安易に思いついた言葉をかけることは迷惑になる。人は沈黙が怖くて言葉でそれを埋めようとする。しかし、沈黙は空白ではない。沈黙の空気の中に人は痛みを分け合う気持ちや愛を込めることができる。」
    と指摘してくれています。
    余計なことを口にするよりも、黙っていることなのです。
    更に海原先生は、
    「痛みや悲しみを分け合うにはどうすればいいか」について書いて下さっています。
    それは「痛みを分け合うには、痛む心の近くにいることではないかと思う」というのです。
    たとえ「離れた場所にいてもその痛む心を思い、祈ることが相手に伝わるような気がする。その人の痛みを想像し、少しでも痛みが軽くなりますように、と心の中で祈る。」
    と書いて下さっています。
    やはり究極は祈るしかないのであります。
    かつて作家の五木寛之先生と対談したときのことを思い起こしました。
    五木先生は、「慈悲」の「悲」ということについて説明してくださいました。
    「人間には激励してもどうにもならない時がありますね。「もう言わないでくれ」という時があります。例えば末期癌の人を見ていて、「必ず治りますよ、新しい手術がありますから大丈夫ですよ」というようなことを言えば言うだけ、相手は「もう言わないでくれ。俺はもうちゃんと覚悟してるんだから」という気持ちになるでしょう。その時に「頑張れ」と言うのは非常に酷だし、聞いているほうは嫌なんですよ。どうして頑張れなんて言うんだと思ってしまう。
     
    それに、人の痛みや苦しみを自分が半分引き受けたいと思っても、それはできないですよね。どんな思いがあっても、人の苦しみはその人の苦しみであって、それを半分自分が分けてもらって背負うことはできません。ではどうすればいいかというと、無言のまま自分の無力感に打ちひしがれながら、その人の隣に座ってじっと相手の顔を見ていることしかないんです。その時のなんとも言えない無力感、ため息のことを「悲」と言うのでしょう。
     だから「悲」というのは、共感、共苦する心です。分けてもらうことはできないけれども、その人の痛みはよく自分の心に伝わっている。だから、共に痛み共に苦しむ。そうすると、頑張れと言われなくても、相手は「ああ、この人は自分の痛みや悲しみをわかってくれている」という気持ちになるのではないか。」
    「この人を助けたいと思っても自分にはできることはないんだと深いため息をつく。そのため息の感情が「悲」というものだと私は勝手に解釈しているのです。」
    というのでした。
    五木先生の深い人生体験と仏教の理解をうかがって感銘を受けたのでした。
    致知出版社から出した五木先生との対談本『命ある限り歩き続ける』から引用しました。
    この言葉を聞くことができて、そして本に記したことだけで、この対談本を出した甲斐があったと思っています。
    「頑張れ」「必ず治る」などという言葉も気を付けなければならないものです。
    悪気がなくても傷つけてしまうことがあるのです。
    祈るこころ、沈黙、そして「悲」という思いを大切にしたいものです。
    横田南嶺
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